雪の旅路




 華やかな衣装、華やかな舞台。華やかな化粧で美しい顔を彩った女領主は、迎えてくれた家臣たちのなかに一人、あまりこの国には見慣れぬ桜花色の髪をした少女が紛れ込んでいるのを見つけた。
「あら、サクラちゃん。来てくれたのね。元気にしてた?」
「はい。雪絵さんもお変わりなようで」
 少女と女は一年ぶりの再会であった。
 ちょうど今から木の葉隠れの里で一巡り季節が遡る頃、サクラたち第七班はAランク任務としてこの女性の護衛任務を請け負った。かつて師であるカカシが敗走してまでも守り抜いた子供であり、雪の国という小国ではあるが島国という特性上各国のパワー・バランスには重要な小さな国家の領主である。  風花雪絵という名の女は領主と女優業を兼業してみせると言っていたことをサクラは思い出した。
「そういえば雪絵さん、あれから映画には出てるんですか?」
 今日は彼女の戴冠記念日である。木の葉に届いた招待状を見たサクラは師である綱手に暇をもらい、その身一つでこの国にやってきたのだ。
 風雲姫の冒険が完結して以来あまり名前を見なくなったかも、と思いながら尋ねたサクラにしかし、女は「えぇ勿論。でもサクラちゃんは…一生見ないほうがいい映画よ」なんて答えた。
「あっ…もしかして、イチャイチャシリーズに…」
 カカシの愛読書でもある『イチャイチャシリーズ』という卑猥な作品が実写映画化されるという話は耳にしたことがあった。サクラ自身未だ未成年ということもあって作品を見たわけでもなく主演女優を気にしていたわけでもなかったが、雪絵の反応を見る限りはその映画は公開された様子である。
「そのうちDVDにもなるらしいから、オトナになって興味があったら見てちょうだいね」
「は はい…」
「それより、他のみんなは?」
「あ…」
 サクラの空気が止まった。みるみるうちに顔が蒼ざめていった少女はしかし、震える唇で「ナ、ナルトとサスケ君は修行で里にいなくて…カカシ、先生も 任務で」と告げた。
「…そう」
 ぎゅっと握りしめた拳と言うことを吐き出した直後に硬く閉ざされた唇から雪絵はその全てが嘘であるとわかった。
 だが彼女は何も言うことなくただサクラの言葉を肯定し、「そうだ!」と手を叩いた。
「サクラちゃん、今日は本当に遠いところからありがとう。あとでお城においでなさいな?おいしいお菓子を出すわ」
「はい…ありがとうございます」



 二人は笑った。
 あの時、私びっくりしたんです。サスケ君がまさか雪絵さんのサインもらっていただなんて。
 そうね、確かに私も驚いたわ。一番クールだと思ってた彼が、ちゃっかり自分のももらいにきていたんだもの。
 サスケくんが?
 他愛のない、とりとめもない雑談だ。
 しかし少女の口からもたらされる仲間たちの話は全て、雪絵たちが出会った『あの日』から進むことはない。今彼らが何をしているのか、第七班はどうなったのか。あなたの恋は実ったのかしら。
 聞きたいことはいくらでも出てきたが、雪絵は黙っていた。



「あのね、サクラちゃん」
 帰り際、船を見送ると言って城を抜け出した雪絵は彼女に優しい声音で言った。
「手紙交換をしない?…きっと、言葉で伝えられないこと、いっぱいあるだろうから」
「…雪絵、さん」
「私こんな性格だから、友達なんていなかったの。…私の初めての友達に なってくれないかしら?」
 雪の国と火の国。一国の領主と下忍の少女。天と地ほどに立場がかけ離れていた二人だが、サクラはにこりと笑った。
「…もちろん。たくさん、たくさんお話ししましょう。私、雪絵さんに聞いてほしいことがたくさんあるんです」

 吹き付ける雪粒はまるで氷のようだ。
 薄い旅装束の青年の身体はそのまま遥か彼方へ飛ばされてしまいそうなほどに薄っぺらいが、どこか暖かさすら感じるその冬風から身体を守ろうと彼は少し大きな岩場の影にしゃがみ込んだ。
「(正面から…行くべきだったな)」
 定期船に乗り込み、久々にこの雪の国に訪れたところまでは問題なかった。だが、下船した直後に乗り合わせていた木の葉の忍に「うちはサスケだ!」と大きな声で名前を呼ばれてしまい注目されることとなってしまい、つい反射的にその場から脱走したのだ。
 この国の領主、風花雪絵とは顔見知りだ。
 左腕を失ってしまった以上、印を組むことができなくなった。同じく片腕を持って行かれたナルトは聞くところによると初代火影の細胞を埋め込んだ義手を使用しているのだという。確かにその道を選べば再び印を組む術が使えるようになるが、サスケ自身、印を組まずともにその瞳術があればほとんど敵なしと言っても過言ではなかった。
 それでも、不便は不便だ。
 うちはの代名詞でもある火遁は使えない。そこで彼がたどり着いた答えが、この国であった。
 かつて下忍であった頃に戦った白という年上だった少年は片手で印を組んでいた。そして水遁と風遁を組み合わせた独自の氷系忍術を用いて戦っていた彼は血系限界という得意な力を有していたことは分かっている。だが、同じく下忍時代にこの雪の国で戦った雪忍と呼ばれた者たちもまた、その氷遁を使っていたことを忘れてはいなかった。
 あの片手で印を組む術が血系限界であろうとも、雪忍たちが氷遁を自在に操っていたように片手印の血脈も外部まで伝わっている可能性は十分にある。そう考えたサスケは、こうしてはるばる定期船に乗り込んできたのだ。
「あら」
 そんな彼の耳にしかし、突如として若い女の声が届いた。
 風音が外界の雑音を遮断していたとはいえ、気づかないとは情けない。サスケはその声を発した主をぎろりと睨んだが、その女は、「やっぱりここにいたのね」という、サスケの居場所を予期していたような言葉を発した。
「…誰だ」
「私よ私。風花雪絵。もう小雪って年じゃないけどね。…それとも、風雲姫って名乗ったほうがよかった?」
「…」
「あら、忘れちゃった?」
「いや…そういう 訳じゃないが」
 突然現れた旧知の女にサスケは目を丸くした。
「さっきね、」そう言って雪絵は話し始めた。「木の葉から来た使者の方が、港でうちはサスケを見たって言ってて。…アナタの話はなんとなく知っていたから…人前に出て来ないだろうと思って。それで、ここにいるんじゃないかなぁって」
 随分と手の内を読まれてしまったものだ。
 サスケはため息をついてから、「まさにその通りだ」と言った。
「やっぱり。…それで?アナタがここに来たの、観光じゃないのでしょう?」
「…雪忍について知りたい」
「雪忍、ね。私も彼らがどこから来たのかはよく知らないけど…ドトウが支配していた頃、雪忍たちに与えていた部屋がそのままになっているわ。何かわかるかもしれない」
 あっさりと彼女は答えた。
 そして長い裾をずりずりと引きずって、彼がしゃがみこんだ岩陰に入り込んでくると隣に腰掛け、空を仰いだ。ふぅふぅと両手を擦り合わせて白い息を吹き変えれば、不思議そうな表情をした青年に微笑んだ。
「…寒いでしょ」
「あぁ。春の国に…するんじゃなかったのか?」
「発熱機、壊しちゃったから」
「壊した?」  それは彼女の父親が最期に残していった形見の絡繰であったはずだ。大事なものだったんじゃないのか?と聞けば、彼女は言葉を濁しながら「そうもいかなくなって」と答えた。
「もう二度と動かない。二度と…この国に春は来ないわ。…『暁』っていう犯罪組織を、あなたは知ってるよね?」
「…」
「サスケ君も一時期『暁』に入って指名手配されてたけど。ふふふ。…まぁ、それは別にいいの。その『暁』が…この国にも来たのよ。ずっと前のことだけど」
 彼が里抜けをしてから二、三年した頃の話だったという。この岩肌の下に脈々と流れる自然エネルギーを用いて熱を発する大掛かりな装置といえばこの国以外において存在しない。
 だから彼らは狙ったの。そう言った。
「その人は…女だったわ。名前を小南といったかしら。私よりも少し年上の人だったわ」
「あいつか」
 サスケと彼女に面識はほぼ、ない。だが遠目でその姿をなんだか見たことはあるし、後々聞いたところによれば弥彦や長門の意志を継ぎ、勝てる見込みもない相手に挑み、死んでいったという。
 そんな平和を願う女であったことは知っていた。
「それで、あんたはどうしたんだ?」
「世界平和のために必要だから寄越せと言われたから…六角水晶もろとも壊してやったわ。ドトウは役に立たないって思ってたみたいだけど、発熱機は手を加えれば立派な兵器になることは分かっていたから…装置を止めるフリをしてサクラちゃんにおみやげでもらってた、護身用の爆発する札をぺたっと貼ってやったの」
「…サクラの、土産?」
 物騒なものを領主に渡したものだ。突然出てきた同期の少女の名前にサスケは目を丸くしたが、『護身用』に起爆札を渡すあたり彼女らしいと目を細めてわずかだが口元に微笑みを浮かべた。
 確かに発熱機が『暁』の手に渡っていたらどうなっていたかは分からない。大地の力を最大効率で利用し、狭いとはいえ一つの島国全土を温暖化させ恒温制御も可能とする。そんな代物が兵器転用されていれば、今サスケはこの場にいなかったかもしれないとすら思えた。
「それで、破壊したら引き下がったのか?」
 この国だけでなく、世界平和すら守ったやもしれぬ女にそう尋ねると彼女は朗らかに応えた。
「えぇ。もうここには用がないって。私もあれだけ派手に爆発するとは思ってなかったから、顔にやけどしちゃって。あのあとマキノ監督にすごく怒られたんだけど…とにもかくにも、おかげでまた冬に逆戻り。父がいない以上、もうあの絡繰が再び春をもたらしてくれることは…ないわ。でもね、私の判断は正しかったと信じてる」
 例え唯一であった父の遺産を失ったとしても。そう言うとサスケも、「そうだな」と同意した。
「来たのが小南でよかったな。…他の奴らなら、殺されてたかもしれない」
「えぇ。…あの女の人、悲しい目をしていたわ」
 そこまで言うと、彼女は突然そうだ!と声を上げた。
「そういえばサスケ君、あなたもう木の葉に戻ってるのよね?」
「…一応はな」
 籍は木の葉にある。間違いではなかった。
「サクラちゃん、ずいぶん泣かせたみたいじゃない。…悪い男の子になったわね」
「はぁ?」
「もう男の子って年でもないか。あんなに小さかったのに、もう大きくなっちゃって」
 雪絵よりも頭一つ身長が高いサスケである。旅装束はみすぼらしく、マントの裾はずたずたに裂けている。背中に挿したたった一本の剣でここまでやってきたのであろう。雪絵はくすりと苦笑いしてから、
「うちに来なさいな。私のお友達だもの、あったかい服と食事くらいなら用意できるわ」
 と言い、美しい顔には有無を言わせぬ強気な『風雲姫』があった。





「どうかしら?三太夫のものだから、少し小さいかもしれないけれど」
「いや、大丈夫だ」
 あっという間に風花城に招かれたサスケは薄汚れた身ぐるみを全て剥ぎ取られ、温かい風呂に投げ入れられ、上質な着物を押し付けられていた。マントを脱いだときにサスケの左腕が上腕部分からすっかりなくなってしまったころに雪絵は何か言いたそうであったが、見なかったことにして浴室に押し込まれたのをサスケは気づいていた。
 一番の従者であった亡き三太夫の着物は少し、丈が短い。だが寒さを凌ぐ分には問題ない。
「今雪忍の部屋にあった巻物を探してもらっているから…少し待ってて」
 そう言って彼女は従者が持ってきた茶とせんべいを差し出した。「甘いもの、苦手だったでしょう」と言う彼女の姿は、少しばかり『あの頃』よりも年齢を刻んでいるが変わりはない。随分『丸く』なり、細やかな心配りができるあたりはさすがといったところだ。
「それで、さっきの話だけど」
「発熱機の話か?」
「そうじゃないわよ。サクラちゃんよ」
「…」
「私ね、あなたが里を抜けてから…雪の国に招待したの。あなたたち木の葉の第七班を」
「!」
 それは初耳であった。
 だが、その時に爆発するお札をもらったのと雪絵がいえば合点がいった。
「そしたらサクラちゃんだけが来て、他の人は?って聞いたらあの子、なんて答えたと思う?」
「……カカシは任務、ナルトとオレは修行で…来れなかった」
「わかってるじゃない」
 ありきたりな嘘で彼女は事実を隠したのだ。雪絵から見た第七班は固い絆に結ばれており、サクラ一人で来るとは思っていなかったのだと言った。だから彼女が泣きそうな顔をどうにか押しとどめてそんな見え透いた嘘で取り繕った時には、一瞬で雪絵は理解したのと言った。
 開け放たれた中庭にしんしんと降り積もる雪はどこまでも白い。あれだけかつての自分たちが苦労して守ってみせたこの国はもう二度と春の日差しを受けることはないのであろう。少し残念ではあった。
「あいつは他人に気を使う節がある」
「えぇ。それもとてつもなく、ね。ちゃんとサクラちゃんには謝ったの?」
「余計なお世話だ」
「お世話じゃないわよ。私の大事なお友達を泣かせたのよ?ちゃんと謝ってもらわないと困るもの」
 ともだち。
 年の離れた女性はサクラのことをそう表現した。サスケは思わずため息をつき、「謝ったさ」と言った。週末の谷でぼそりと呟いた記憶はあるし、その精一杯の謝罪をサクラが涙をこぼしながらであるが受け取ってくれたことも覚えている。だから、彼女のいう『謝罪』はしたはずだ。
「謝っただけ?」
「…他に何があるっていうんだ」
「サクラちゃんの気持ち、気づいてるくせに」
「…」
 雪絵はまっすぐにサスケを向き、彼が視線を外しても目をそらさなかった。
「あんまり…待たせないであげてね。ずっとずっと、あなたのために泣いているのよ」
「…」
 そこまで言うと雪絵は彼女の背後にある棚からガサリと紙束を取り出した。桜色の便箋が数枚、ときには巻物。それらを床に並べると、彼女は「サクラちゃんとね、文通をしていたの」と言った。
「あの日…サクラちゃんが一人で雪の国に来てから、もう招待するのはやめたわ。代わりに手紙を交換することにしたの。私もサクラちゃんも忙しいし…少し前は戦争だったでしょう?それ以来ご無沙汰なんだけど」
 十にも満たない数の封筒であったが、雪絵はそれらを大切そうに胸に抱いた。
「あなたのこと、ナルトのこと、カカシのこと。いつもサクラちゃんの手紙にはみんなのことが書いてあったわ。…あなたがいなくなってしまったこと、ナルトが今も火影を目指していること。あなたの…『うちは』の惨劇のこと。いつだってあの子の手紙は、涙で濡れてくしゃくしゃになっていたのよ」
「だったら何だ」
「言ったでしょう?私は友達に幸せになってほしいのよ。…サスケ君だって、サクラちゃんのこと嫌いじゃないんでしょう?」
 彼女のことを。
 そう言い当てられてサスケは黙った。
 確かに雪絵の言葉に否定はできない。うざい、面倒くさい、厄介。そう思ったことは幾度となくあったが、それでも無関心を装うことができなかったのは確かだ。彼自身が心の奥底に隠し持っていた思慕にも近い情を無理やり復讐という決意で黒く塗りつぶしたが故の嫌悪であったことはサスケも自覚していた。
 その様子が雪絵にも伝わったのか、彼女はにこりと笑って「図星」と言った。
「素直になりなさいよ。ぼんやりしてると、サクラちゃん他の人に取られちゃうわよ?」
「…その方があいつのためだ」
「あら」
「『うちは』のオレが隣にいるだけであいつの立場は悪くなる。あいつは気がきく女だ。いくらでも言い寄る男はいる」
「あなたは…それでいいの?」
 いい悪いの話じゃない。
 サスケはわずかに語気を強めた。
「そうあるべきだ」
「…嘘つき。弱虫、軟弱者」
「…」
 雪絵はサスケに負けないほどの強い言葉で、きっと釣り上げた眦のまま静かに罵倒した。
「覚悟がないだけでしょう?人を愛する覚悟。…その人のためになら、鬼にでも…修羅にでもなれる覚悟。それがないだけじゃない。うちはが何よ、ちょっと国際指名手配されてただけでしょう?テロリストが何よ。あなたとナルトのおかげで忍界大戦は終結したんでしょう?そうやって自分の気持ちを押し殺すのはあなたが弱いからよ」
 サスケの前に構える女にかつての『おてんば姫』の面影はなかった。サクラの友人だと言ってはいるが、サスケの目には小さけれども一国をまとめ上げる領主の姿が映っている。きらびやかな衣装と化粧で着飾り、美しい所作で人々を魅了する。そんな上部だけではやっていけない国の主という立場を守ってきただけある。
 よくよく考えてみれば、彼女はたった一人で『暁』をある意味撃退した女だ。サスケはそんな彼女に質問に答えることなく逆に問うた。
「じゃあアンタは…鬼や修羅とやらになる 覚悟があるっていうのか?」
「えぇ」
 女は即答した。「私はこの雪の国を亡き父から受け継いだ。この国は私が命と等しいのよ。その命を守るためならば…風花小雪という『個』を殺すことができる。『私』の大切なものを自ら捨てる鬼になれる、愛する者のためならばどれだけ私自身を犠牲にすることも厭わぬ修羅にだって なれるわ」
「…」
「覚悟よ、サスケ君」


「人を愛するということは、修羅にでも鬼にでもなれる覚悟を持つということなのよ」


 まるで映画のセリフだ。それを人気映画女優が言うのだから仕方がない。
 サスケは息を止めてその話を一通り聞いていたが、ややあって、フ、と息を吐いた。「確かに…そうかもな」と応えたサスケの脳裏には最愛の兄イタチの姿がよぎっていた。彼が愛した唯一の人間、つまりはサスケを守るためにイタチは全てを捨てた。
 自らが憎まれようとも、たとえ一族郎等を刃にかけようともサスケを守れるのであれば全てを犠牲にしてきたのだ。最後は己の命すら、己の心すらも殺した彼のサスケに対する『愛』こそが、雪絵のいう『覚悟』なのであろう。
「…アンタ、サクラからうちはのことを聞いたって言ったな」
「手紙でだけどね」
「オレの兄は、アンタの言う『鬼』になって死んだ」
「…」
「オレがこの手で殺した」
「…」
「アイツほどの覚悟は今のオレにはない。だが…」
 それでも、とサスケは顔を上げた。
「せめてこの手が届く範囲でなら、守ってみせる」
 彼は右腕を上げた。今まで全てを切り捨ててきた左腕は消え去った。ならば残された右腕は全てを守るために振るってみせる。サスケはそう言うと雪絵の答えを待った。だが、彼女は真剣すぎる返答に対して声を上げて笑ったのだ!
「何がおかしい!」
「だって、わかってるじゃない、あなた。…もうとっくに 答えは出ているじゃない」
「…」
「大丈夫よ」女は言った。「…あなたにはかつて木の葉を、故郷を捨てるほどの覚悟があったんでしょう?大事なものを捨てたその恐さを知っているなら…きっと、人を愛せるわ」
 領主の女は全てを見通した千里眼を持つかのように 青年に微笑んだ。


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