民よ、我らにクリスタルの導きを


ク:崩レ落チル前ニ(セオドアとアーシュラ)


 子女を守るは騎士の義務、である。
 己の拳を武器とする王女であろうとも、非力な幼女であろうともそれは変わらぬ。セオドアはむき出しの足に傷を負ったアーシュラに駆け寄ると、慌ててケアルダを唱えた。手早く回復してしまえば痕にはならない。既に拳には修行の成果とも言える傷痕をいくつかもつアーシュラであるが、美しい曲線を描く足に痕が残ってしまってはいけない。白い包帯を片手にセオドアは慣れた手つきで詠唱する。
「ありがとう、セオドア」
「こちらこそ。アーシュラが前に出てくれたおかげで助かったよ」
 キラキラと淡い光が立ち上り、少女の柔肌を癒していく。月の渓谷を奥へ奥へと進んで行く中、弓矢を装備するセオドアは後衛に下がりパロムと共に前衛を援護する役割を担っていた。レオノーラとパロム、そしてセオドアの三人が臨機応変に魔法で援護しながらアーシュラとゴルベーザが敵陣へ突っ込んで行く。伯父であるゴルベーザとセオドアの立ち位置が逆ではないのかという疑問もあったが、案外うまくいく。年上の幼馴染が拳を叩き込み、近距離での黒魔法を浴びせながらの剣戟はかなり有効であった。
 代償として前衛二人は生傷が絶えないのだが、それは仕方あるまい。
「うまくなったのね、白魔法」
「アーシュラこそ。点穴決まってたよ」
「そりゃ一応修行してますから」
「僕だって同じだよ。…もっと、強くならなきゃ」
 そうね。ファブールの王女は呟いた。
 セオドアもアーシュラも、国は違えど王位を継ぐ者である。各人の社会的立場を考慮した編成などはされていないが、それでも皆気を使うのだ。セオドアに迫る攻撃はパロムが魔法ではじき返し、アーシュラへ襲いかかる爆風の余波はゴルベーザが身を呈して防ぐ。歯痒いと二人が感じようともそれは変えられることのない現状の一つだ。
「ゴルベーザ様は?」
「レオノーラさんが診てる。パロムさんも一緒だ」
 至近距離で爆発したゴルベーザのフレアとパロム、そしてレオノーラの放ったそれぞれのファイガによって大爆発を起こしてしまったのは一時間ほど前のこと。熱風吹き荒れる戦場の中アーシュラが足を火傷し、セオドアが腕を少しばかり焼かれただけで済んだのは周囲が庇ってくれたためだ。ゴルベーザは申し訳程度に巻いていた黒い大きな布のマント諸共派手な火傷を背に負ってしまったものだし、セオドアとレオノーラを守ろうとしたパロムも酷い火傷を負った。そのレオノーラといえば、セオドアを守ったために法衣を真っ黒焦げにしてしまっている。
 そういうときは「ごめんなさい」じゃなくて「ありがとう」よと教えてくれたセオドアの母の言いつけ通り、二人は一緒にお礼を言いに行こうと決めていた。
「…カイン様たち、無事かしら」
「大丈夫だよ。あっちにはポロムさんも母さんもいる。…悔しいけど、僕らのチームよりもしっかりしてると思うよ」
「違いないわね」
 もう一班は今頃どの辺りにいるであろうか。枝分かれで別れた師のことを思い出してセオドアは苦笑した。ゴルベーザが無言でカインと同じチームに入ろうとしたのを母親であるローザが強烈な笑顔でセオドアたちに回したのだ。あまりにも戦闘経験の少ない彼らにとってあなたの存在が必要なの、と。笑顔のローザに「お義兄さん、お願いします」と言われ断れるはずもない。仏頂面でしぶしぶ承諾した伯父を指差してカインが腹を抱えて笑っていた姿が強烈すぎて、しばらくセオドアの脳裏から離れてはくれなかった。
 あちらもあちらで、ローザとポロムがいるとはいえ前衛を担うのはカインとルカ愛用の人形二体だ。しっかりしている人選であることに違いはないが、苦戦は必至であることも違いない。
「……大丈夫よセオドア」
 年上の幼馴染は足に靴をつっかけ立ち上がると、ぐりぐりと足首を回した。
 向こう側の岩陰からゴルベーザたちがやってくる。幸いパロムの火傷は利き手である左ではなく右腕であったようで、ロッドを振り回すには支障がないと言った。「レオノーラも服が燃えちまっただけだ。セオドアとゴルベーザのおっさんが前後交代した方が良さそうだな」
「それがいい。私は些か剣を振るい難い。下がらせてもらおう」
「はい。じゃあ今度は僕が剣を」
 身の丈近くの大きさを持つ盾を片手で軽々と持ち上げたセオドアは強い眼差しでそう告げた。王族二人が前に出るということは、援護如何では『大変なこと』になる。先ほど炎魔法を暴発させてしまった黒魔法使い三人は顔を見合わせ、「やりすぎ厳禁だ」だなんて言い合った。
「大丈夫です。今度は私、避けてみせます」
「僕も盾がありますから。アーシュラも守ります」
「頼むぜ、セオドア。バランス悪いだのなんだの文句は生きてみんなと合流してから言ってやらなきゃな」
「そうですね」
 法衣の裾を派手に燃やし、白い足をむき出しにしたレオノーラも煤だらけの顔で笑った。戦闘経験の浅い若人たちに囲まれたかつての魔人は勘弁してくれとばかりに大きなため息をついたが、それでも甥をじっと見据えて「崩れ落ちる前に」と言う。
「女を守れ。それがお前の役割だ」
 なんて言ってみせた。
「はい。僕は…アーシュラを守ってみせます。…守られなくてもいいように、皆を守って、自分の身も守ってみせます」
 と、いかにも両親から寵愛されて育った王子ならではの言葉を言ってみせた。少年の無意識で真摯な言葉にアーシュラはわずかばかり顔を赤らめて背け、パロムはニヤついた。訳がわからぬとレオノーラが首をかしげるさらに隣でゴルベーザは郷愁めいた瞳をしてわずかに口の端に笑みを浮かべた。



リ:凛トシタ花ノ如ク(レオノーラとゴルベーザ)


 これは必要ない、これはまだ使える。
 レオノーラは座り込んで布袋にぎっしりと詰めていた薬草を乾いたスカーフの上に並べた。青き星から持ち込んだ薬草の類はしっかりと乾燥させており、必要に応じて煎じればいい。だが摘んでから日が経っているものは茶へと変色し、効力を失っていた。それらを選別する作業を彼女は食当のポロムらが作業する影で地道に進めていた。
 ダムシアンの薬草は保存が効いて、効力も高い。輸入品故トロイアではかなり高価であったが、ギルバートがそれなりの数を持っていたはずだ。ならばレオノーラが持つ古いものは混同しないように分ける必要がある。黄色いものはまだ大丈夫。茶色いものは少し古いから、ポーションに漬け置きすればいい。
「これは…こっちかしら。それから…」
「ミシディアの葉はすぐに駄目になる。全てエクスポーションに入れてしまえ。それか今日の鍋にでも入れろ」
「そうなんですか?じゃあ……!!!あ、あ すみません!わたしってば、なにを…!」
「…そこまで驚くことはなかろう」
 少女はその場で飛び上がりそうなほどの声をあげた。頭上から降ってきた声に適当に返事をしてから、その声の主人があのゴルベーザであったことに気づいてしまったからだ。先の大戦でこの男が何をしたか、レオノーラは詳細を知ってはいなかった。だが師であるパロムらの両親の命を間接的に奪い、青き星を混乱に陥れた元・悪の魔法使いだといううっすらとした認識は持っている。この黒衣の大男に今はもはや邪心がないということは皆の共通認識であるがそれでも恐怖は未だ残る。
 勿論、ゴルベーザ自身も若者たちから『そのように』思われていることは承知の上だ。食事の際も、睡眠をとる際も戦闘となろうとも一歩退いた場所にいることが常だ。
「いえ、あの…すみませんでした。とても…驚いてしまったので」
「…」
「あ、あの!」
 少しばかり魔人は傷ついたのかもしれない。彫りの深い目鼻立ちで表情は隠されてはいるものの、すっかり押し黙った様子を見てレオノーラは慌てて付け加えた。
「薬草…詳しいのですか?ミシディアのこの薬草、すごく珍しいもので…知っている方がいるとは 思っていなかったので」
「…専門ではないが、多少の知識があるだけだ。ミシディアの近くに…ずっと昔、住んでいたことがある」
「そうなのですか?わたしもミシディア出身なのですけれど、この葉は本当に見つからなくて」
「雨上がりの朝、枯れかけた大木の根元を探すといい。摘んでしまえば三日ほどですぐ駄目になる」
「乾かしてもやはり…?」
 あぁ。
 ゴルベーザはレオノーラの隣に腰掛け、まだ選別していなかった薬草の束に目をやった。産地ごとに、種類ごとに小さなタグをつけてまとめているところから見るにこの少女はとても律儀らしい。同じ薬草でも産地が違えば少しばかり味も匂いも違う。良薬は口に苦しとはよく言うものだったが、人によって薬草の味好みというものもある。 「ファブールのものだと、とっても苦くてパロムは飲んでくれないんです」
 だから煎じて、砂糖を入れて休憩中に飲まないと。世界で一番苦いとまで評されるその茶を砂糖も入れずに飲めるのはこのパーティではたった数名だ。「セシル様もとてもじゃないがストレートでは飲めないって仰って」と、にこにこしながら告げる少女に恐怖の色はもう、ない。
「こちらの赤い葉は?」
「これは痛み止めにすごく効くんです。赤くなると効能が変わるんです。さっきアーシュラさんが足を挫いたそうなので、後で渡そうかと」
「それがいい。先ほどのミシディアの薬草だが…頑固な忍頭にあとでエクスポーションと一緒に飲ませてやってくれ」
「まぁ、いけませんね。あとでこっそりお渡しします。そういえば、先日エブラーナの薬草というものを初めて買ってみたのですが…ご存知ですか?」
 もともと乾燥させてある茶葉なのですが、とレオノーラは小さな袋に入ったそれらをゴルベーザに手渡した。赤い実と白い花びらが時折混じったそれをレオノーラは旅の行商から買ったのだと言った。
 幼い頃ゼムスの思念にあてられてからというものの、世界中を放浪したゴルベーザにとって薬草は生命線とも言えた。道端に生えている雑草であろうとも、時には毒草となり罠として活用する時もあれば、薬草として自身に使う。エブラーナのこの茶葉も彼にしてみれば当たり前のものだ。「これは随分といい薬になる」と告げた。
「確か…数年に一度しか花が咲かぬ薬草だ。かなり高価で売れるはずだが、効果も知らずにこんなものを買ったのか?」
「怪我をされていた行商人さんを助けたら、とても安く売ってくださったんです。トロイアの神官さまたちも誰も価値がわからなくて…」
「…ふむ。どうやらお前は薬草を溜め込みすぎているようだな」
「使う頻度が、今まではあまり高くなかったので」
「今までは、な」
「はい。今はこれだけ大勢の人が戦っていて…回復薬は限られています。ギルバート様が管理してくださってはいますが、薬草の類も併用していかないと、すぐに戦えなくなってしまいますから」
 大局を見る目も、どうやら備わっているようだ。ただ怪我を癒すだけの薬草もあれば、毒消しの効能を持つ草花もある。レオノーラは機械的にそれらを分類し、わからないものがあればゴルベーザに尋ねた。これはどういう花か、ひどく苦いがポーションに漬ければ飲めるのか?万能薬代わりにするには少し辛くて飲みづらいかもしれない。
 ゴルベーザもまた淡々と少女の質問に答えていった。驚くことに、彼の知らぬ薬草もレオノーラは知っており、逆にゴルベーザが彼女の手を止めさせて薬草の種を聞くこともあった。ミシディアの甘い薬花はツキノワでも飲める。バロンの薬草は飛空挺の排気で汚染されていて飲めたものではない。バブイルの巨人が焼き払った野に咲いた花は青き星では見たことのない新種。薄紅色の大輪は蜜漬けにすれば甘味としても嗜まれる高級品。
「…ダムシアン王もくすりをいくつか持っていたな。それと合わせれば…多少は効率が上がるだろう」
「ギルバート様のですか?確かに、ダムシアンのおくすりは普通のものよりも効き目がありますね」
「エーテルの類は多い方がいい。我ら魔道士は魔力が枯渇すればただの的にしかならん」
「はい。エーテル漬けにしても大丈夫そうなものはギルバート様へ」
 とはいえ薬草の知識を持つ人間は限られている。レオノーラはこの場にいる人間のほとんどと今まで関わりを持っていなかったものだから、誰がどの程度知識を持つのかを知らない。どうしましょう、と言いたげな視線をゴルベーザに投げかけてみたが彼もまた首を横に振った。
「エブラーナの忍なら多少は知識を持つであろうが…彼らは独自の薬草を使う。ミシディアの魔道士たちか、ダムシアン王…それかカインあたりに持たせるのがいいであろう」
「カイン様にですか?」
「他の者のことをあまり知る訳ではないが…奴はバロンにいた頃、しょっちゅう遠征で未開の地に送られていたようだからな。どんな雑草でも食えると聞いたことがある」
 嘘か誠かは知らぬが、嘘だとすれば己の口が招いた災いだ。ファブールの苦い草を口いっぱいに詰めてやる。そう言ったゴルベーザに少女は思わずくすりと笑った。「なんだか、楽しいです」と。
「…?」
「わたしは…昔のことはよく知りません。ずっと小さかったから。だから、あなたのことは人づてにしか聞いたことがなかったんです。この星を恐怖に晒した魔人・ゴルベーザ…バロンは、いいえセシル様はその悪名を言いふらすようなことはしなかったけれど…ミシディアはそのバロンによって攻め入られ、たくさんの人が亡くなりました。トロイアでもクリスタルを奪われました。あなたの名前は、その元凶としてたくさん聞きました」
「……」
 だけど、とレオノーラはふんわりとうつくしい笑顔を見せた。
「こんなにも素敵なお兄様を持てて、セシル様はきっと幸せだと思います」
「!」
「青き星のことをたくさん知っていて…その青き星を守るために、こうして一緒に戦ってくださりますから」
「そう…言ってくれるのか」
「はい。だから、これからもよろしくお願い致します。ゴルベーザ様」
「……様、づけはやめてもらえぬか」
「?す、すみません。つい癖で…」
 その呼称はどうにも『魔人ゴルベーザ』であった頃を思い出す。そう告げてやると少女は少しばかり眉尻を下げ、「はい」と言った。心やさしきトロイアの神官見習いはやはりにこにことしたまま、まだまだ薬草、たくさんあるんですと言って再び無心となって乾燥した草花の分別に勤しみ始めた。



ス:吸イ込マレル、白ト黒(リディアとカイン)


「悔しいな」
「なにがだ?」
「カインが白魔法使えるようになっちゃったこと」
「…」
「小さい頃は私も白魔法と黒魔法、それこそレオノーラみたいにうまく両方使えたのになぁ。…いつの間にか、使えなくなっちゃったんだもの」
「俺はもともと魔法なんざ使えないぞ」
「だけど今は白魔法、使えるでしょう?いいなぁ…」
 そんなことを言ったリディアに、壮年の竜騎士は苦笑した。「俺はな」と言う。
「あいにくお前が使いたいような白魔法は使えない。セシルやセオドアみたいなこれぞ聖騎士様な類はからっきしだ」
「…そうなの?」
 なけなしのケアル、ブリンク、ヘイスト、テレポ、そして再びなけなしのケアルラ。
 白魔法というにはお粗末すぎるレパートリーしか持っていないとカインは告げた。最前線で戦うには有用な魔法は使えるが、どれも仲間を守るものではない。自らを強化し、鼓舞し、敵を討つ効率を上げるための聖なる力である。
「セシルみたいに後ろに下がって回復役もこなせる訳がなかろう、俺が」
「それもそうかも」
 常にエッジと共に敵の元へ切り込んでいくカインだ。そのエッジも、手裏剣やブーメランといった投擲物も得意とするため後衛に下がることもある。『いつもの』メンバーで戦う際の切り込み隊長はいつだってカインなのだ。
 セシルとエッジが前後に移動しながら回復や忍術での援護を行い、最後列でリディアとローザが魔法を扱う。そんな隊列が固定されたに等しいメンバーの中でカインが新たに癒しを主とする白魔法を得たところで運用がうまくいくとは思わなかった。
 リディアはくすくすと笑って「だけど 不思議ね」と重ねて言った。
 黒に近い群青の竜を模した甲冑に見慣れていたリディアにとっては、長年ぶりの再会である友人の変わり果てた姿に驚いたものだった。白銀の竜麟を持つ鎧にあらわとなった整った顔立ち。黄金に光り、竜の尾が如く揺れるプラチナブロンドの髪の毛。素顔を見たことがない訳ではなかったが、それでも常に見えているという状況は非常に目新しい。
 加えて、白魔法である。
「たくさんのことが…変わってしまった。いい意味でも…悪い意味でも。カインだってきっとすごく変わったし…セシルも、ローザも…セオドアも生まれて、アーシュラも生まれて…パロムとポロムもあんなに大きくなって、ギルバートも立派な王様になって でも 変わらないものも…たくさんあるのね」
「…そうだな」
 孤児が暗黒騎士となり、そして聖騎士となり遂には美しき妃を持つ王になり。見目麗しき王子が元気に育つ頃には友好国ファブールでも王女がすくすくと育っていた。遥かなるトロイアでミシディア出身の神官見習いが修行を積む頃には生意気盛りのパロムが旅に出て。
 あんなに騒がしく落ち着きのなかったエドワード王子はエドワード王となり、老若男女を問わぬ精鋭を率いる忍頭として世界を飛び回る。
 時を止めたかのように『過去』から一歩も進めなかった友人カインですら、未来へと歩み始めてしまったのだ。
 それでも、とリディアは言う。
「セシルは相変わらずだし、ローザも怒ると怖いし。エッジは手下さんの前では偉そうなのにまたえっちなほんを部屋に持ち込んでるし。パロムも便乗しちゃうし…ギルバートのうたは優しい。……カインも 昔と一緒。気難しい顔して…全部自分のせいにして、今にも倒れそうだよ」
「!」
「セオドアやルカや…若い子たちの前では強くなきゃいけないって気持ち、分かるよ。私だってみんなの前では弱音なんて吐けないもの。……でも、本当はすごく辛い。幻獣のみんながあんなことになってしまって…戦うしかなくなって、逃げ出したいくらい 怖いわ」
「それは…当たり前のことだろう」
「うん。だから私、セシルたちの前では無理をしないことにしてるの。辛かったら辛いって言う。疲れたら…少し疲れたって言うの。その分セオドアたちの前では絶対に挫けたりはしないって 誓った」
 緑の瞳が強い輝きを帯びた。
 そこには恐怖に怯えタイタンを召喚してしまったかつての面影などどこにもない。今も彼女の胸中に渦巻くは得体の知れない敵への恐怖と、家族とも言える仲間の安否を案ずるとてつもない不安。リディアは続けた。「だからカインも…もっと私たちに甘えてよ。辛いなら辛いって言って。セシルはもう大丈夫なんだもの。みんなの前では無理でも 私たちの前では…もっと 休んでよ」
「…女子供や病み上がりの国王に女みたいな国王に不寝番を任せる訳にはいかないだろう」
「だからって、エッジとカインとゴルベーザさんの三人でずっと回す訳にもいかないでしょ。私たちだって…」
「術士にとって集中力は威力に直結する。睡眠不足で詠唱を間違えられでもしたら敵わん」
「わからずや!それはカインも一緒でしょ!カインだってたまに魔法使ってるくせに!」
「他人には使わんぞ」
「もう、そういうことじゃないって!」
「…わかっているさ。だが人には向き不向きがある。エブラーナの忍衆も優秀だが…実戦経験がまだ浅い。この月ではいつどこで強力な魔物が控えているか分からないのだから、慣れている人間の負担を大きくするのは悪くはないはずだが」
「それは、そうだけど」
「リディア、お前だって同じだろう?」
 カインはそこで小さく口の端をあげた。悪戯小僧めいたその皮肉交じりの笑みは昔と同じだ。「パロムも黒魔法はかなりのものだ。才能ならレオノーラの方が上かもしれないが、彼女は少し詠唱が遅すぎる。だがエッジの忍術では火力が足りぬし、そもそもやつには前衛にいてもらわねばならん。となれば、黒魔法を扱う術士としての負担はお前が一番大きいはずだ」
「…」
「ゴルベーザだけは別格だがな。アレとお前が黒魔法を担っていると言っても過言ではないだろう」
「……ほかのみんなだって 助けてくれる。でも、以前の月の戦いで…私たちはゼロムスと戦った。たどり着くまでにも大きな魔物と何度も戦って…そのたびにいっぱい怪我をしたけど、戦ってきた数なら、ほかのみんなよりもずっと上だもの」
「ほらな」
 それとこれと同じだ。カインは再び笑った。
「同じ、だけど…」
「ただのちからだけで言えば…俺やエッジよりもファブールのモンク僧の方がかなり上だ。だが機動力は俺やエッジの方に分がある。小回りはエッジほどじゃないが、俺はアイツより頑丈だし、攻撃力はある。実戦経験に関しちゃ、俺はセシルよりも上だ。セオドアの年頃にはもうとっくに騎士だったからな」
「…」
「いいんだよ、今はこれで。セシルが万全な状態に戻れば…俺たちの負担も少しは軽くなる。それにな、リディア」
「?」
 カインはそう言って彼女の隣に腰を下ろした。今頃見回りに出たパロムたちは魔物に追いかけ回されている頃であろうか。このあたりには凶々しい気配は漂っておらず、遭遇したとしても『若年組』で対応できる範囲であろうということで彼らに哨戒を任せている。ミシディアの若き黒魔道士に、ファブールの王女。エブラーナの老兵あたりがまとめてはくれているだろうが、セオドアが慣れない戦闘メンバーに慌てふためいていることが容易に想像できる。念のためギルバートに援護を頼んではいるが、さてさてどうなったことだろうか。
「お前がそんな顔してちゃ、俺がセシルに怒られちまう」
「カインこそ、疲れた顔してる。休まなきゃあなただってセシルに怒られるよ?」
「セシルに怒られたところで怖くはないさ。それに俺が疲れているのはアイツのせいだからな」
 ばか!
 それじゃ本末転倒でしょ!とリディアは非難の声を上げたが、疲れた顔をしながらもどこかその表情には笑顔が浮いていた。



タ:叩キ付ケラレタ祈リ(ローザとカイン/カイン→ローザ)


 ローザの癒しの力が弱くなった。
 誰が言い出した訳でもないが、全員の共通認識としてその言葉が触れて回った。
 愛する仲間であり良人でもあるセシルが目覚めぬ中、気丈に皆を癒し続けてきたその女性が膝をついたとき、真っ先に駆けつけたのはカインであった。真っ青な顔をした彼女を抱きとめなけなしのケアルラをかけていた姿は皆の記憶に新しい。
 最初こそ今まで気を張っていた分の疲れが出たのだと思っていたがそうでもなかったらしい。目覚めたローザは何事もなかったかのように戦線復帰したが、『祈る』ことができなくなってしまっていたのだ。
「…誰に祈れば いいのかしら」
 ぼんやりとした様子でエーテルを口に含みながら麗しの女は呟いた。
 とりあえず休んでいろと魔導船に帰された彼女はひんやりとした床に座り込み、無限に広がる荒野以外見えぬ景色を眺めていた。「大丈夫か、ローザ」と気遣った声が頭上から降ってくる。カインだ。
「えぇ。…カイン、外ではなかったの?」
「足を挫いた。大丈夫だと言ったんだが…エッジのやつ、話を聞かんでな」
「それは大変ね」
 くすくすとローザは笑った。それが単純で見え透いた方便であることは彼女にもわかっていた。セシルがいない以上、ローザという女性を気遣える人間は少ない。エッジとリディアあたりが気を利かせてこの聖竜騎士を送り込んできたのだろう。ありがたく彼女は隣に腰掛けたカインにもたれかかった。
「こんなのじゃ 駄目ね」
「…」
 バロン国王の妃として、世界を導くために眠る彼に付き添う女として、不安いっぱいでも健気に戦う息子を守る母親として。
 天空へと祈りを捧げることで魔力を消費することなく癒しの力を引き出す力は白魔道士に共通しているが、ローザのそれは特に凄まじい。あっという間に傷を癒し、魔力すらも回復する。ポロムの使うそれとは桁違いだ。それ故にローザが今こうして祈りの力を失ってしまったとなれば、回復の要が崩れたも同じ。
「ごめんなさい、カイン。私が…しっかりしなくちゃいけないのに」
「そうだな」
「…叱ってよ、カイン。昔みたいに…子供の頃、みたいに。しっかりしろって…ちゃんと、しろ って」
「国王の妃に言える言葉じゃないだろう」
「意地悪」
 あぁそうだよ、俺は意地悪だ。もたれかかられた女から漂うセシルの香りをカインは髪の毛に鼻を埋めていっぱいに吸い込んだ。ローザの体は、心は、魂はすでにセシルのものだ。それを分かっていながらも受け入れられなかったが為に世界各国に多大なる迷惑をかけた訳だが、分かっていながら甘えてくるローザにも非はあるはずだ。あくまで彼女がカインに抱く愛情は家族へのそれであるが、カインがローザに抱く愛は男が女に抱く、セシルと同じそれだ。
 たとえそうであっても、とカインはぎゅっとローザの肩を抱いた。ずっと昔、それこそセオドアたちの年頃にはこうして互いを慰めあったものだった。
「覚えてる?」
 ローザは笑っていた。「私が…はじめての実地訓練で、兵士を助けられなくて泣いていたときのこと」と。
「勿論。あの時はセシルが飛空艇の試験飛行でいなかったから、俺に泣きついてきたな」
「実戦でパニックになっちゃったの。兵士たちが魔物に殺されていく姿を…ただ 震えて見ていることしかできなかった」
 彼女とてバロン軍に所属していた身である。騎士のように試練を受ける必要のない魔道士たちは年若いまま戦場に連れて行かれることが昔のバロンでは通例であり、ローザも例外ではなかった。もう20年ほど昔の話、である。その頃には既に父親を喪っていたカインは竜騎士団を率いる若すぎる騎士として魔物の大量発生があるたびに世界を飛び回っては傷だらけで帰還していた。
 散々魔物を退治してうんざりしていたカインが城外を散歩していたところ、今と同じように膝を抱えるローザを見つけたのであった。
 更に小さい頃は彼女をよく叱りつけた、と彼はいつの間にか涙をこぼし始めた幼馴染をひときわ強く抱きしめた。
「気に病むな、ローザ」
「でもッ…私、私は…」
 バロン国王の王妃で、たった一人王子の母親で、仲間を導かねばならないと。もともと人々の上に立つことに慣れていないローザは重圧に押しつぶされそうになってしまったのだ。愛する人を守るために祈る。それが祈りの基礎であることは分かっている。だけどもう誰に祈ればいいのか分からない、と女は再びカインの腕の中で嘆いた。
 セシルのために祈ろうともそれは届くことがない。愛する息子へ、仲間へ祈りを捧げようにも世界でいちばん愛する人への祈りが届かぬという現実に打ちのめされてうまくいかないのよとローザは吐露する。こんなんじゃ駄目よと再び呟いたローザの耳元でカインはそっと囁く。
「いいんだ、ローザ」
 と。
 年の近い兄として慕うカインはごく稀にしかローザを甘やかしはしなかった。昔はいつだって厳しく、少し短気で乱暴な年上の幼馴染はローザを女だからといって特別扱いをすることはなかった。悪いことをすれば父親にそうされていたように拳骨を食らわせてきたし、セシルを苛めるうんと年上の少年たち相手には二人して怪我だらけになりながら掴みかかった。
 そんなカインが甘やかしてくれたのは今までの長い時の中でも片手で数えられるほどだ。ローザが泣きついた遠い過去の夏の日も同じ言葉を吐いて慰めてくれていた、と彼女は思い出した。
 不器用なおにいさんね。
 慰められているのは自分自身だというのに、ローザはなぜだか可笑しくなってくすくすと笑った。
「…なに笑ってる」
「ううん。なんでもない。…続けて」
「…」
「ほーら、私を慰めてくれるんでしょう?」
 悪戯めいた瞳で見上げて訴えてやればすぐに陥落するのが気障な兄の特徴だ。「あのなぁ」と諦めた声音をあげてからカインは続けた。
「お前は確かにセシルの妻で、セオドアの母で、バロンを支える女だ。…だが、俺にとってはただの幼馴染にしかすぎん。ただのやかましいお転婆娘だ。俺が知るローザはセシルと結婚すると浮かれて深夜に人の家にワイン片手に泥酔して忍び込んで暴れるどうしようもない女だ」
「…待って、その話は…」
「嫁入り直前の女がやめろと言っても聞かず、下着姿で散々人の部屋で暴れまわり…翌日には記憶をなくして俺に襲われたと勘違いする馬鹿な女だ」
「……忘れて、お願いカイン。その話だけは忘れて…ください」
 忘れるものかと男は鼻で笑った。セシルには絶対言えない秘密。二人だけの、小さな小さな秘密。酒癖の悪いローザならではの大失態をカインは意地悪そうに思い出させてやった。「もう!」とローザは拳でぽこぽことセシルよりも薄い胸板を叩き、抱かれたカインの腕の中で抗議の声をあげた。
「だから、いいんだよローザ」
「!」
 優しい優しい瞳が三日月のように細まり、薄い唇が額にそっと押し当てられた。
「セシルに祈ればいい。きっとあいつには届いているさ。届かずとも、お前が祈りを捧げたことを俺は知っている。目覚めて届いてなかっただなんて言うセシルは、俺が殴る」
「カイン…」
「お前が想い続けるならば天は応えてくれるだろう。お前が届かぬと思うから…祈りは届かないだけさ」
「そう…かしら」
「そうさ。しっかりしろよローザ。俺にとってお前は王妃でも妻でも母親でもないが、他の皆にとってのローザは王妃で、妻で、母親だ」
「…あなただけは…特別扱いしてくれないのね」
「した方がいいか?王妃様」
「いいえ。…お願いカイン。あなただけは、私をただの女だと思っていて。そして私が挫けそうなときは…今みたいにそばにいてほしいの」
 口下手なあなたが励まそうとしてくれるだけで、私を想ってくれるだけでいいの。女ははらはらと涙を流して微笑んだ。「…俺はお前を泣かせることしかできないな」なんて言ったカインにローザは笑む。「私を泣かせる男なんて、あなただけよ」と。
「…セシルに見つかったら怒られちゃうわね」
「あいつ、嫉妬深いからな」
「浮気じゃないって言ってもきっと信じないわ」
 分かっていて俺に抱かれやがって、とカインはローザの頬を軽く抓る。
「………ありがとう、カイン。もう少しだけ…こうしていてもいい?」
「勿論」
 女は大切な兄の腕の中でまた泣いた。きっと次は大丈夫だからと。
 不器用で荒っぽいカインの優しさはセシルが持たぬものだ。失って久しかったその温かさをしみじみと思い出しながら、ローザは荒れた指先で目元の涙を拭われた。



ル:累及ボスナラバ容赦セズ(ギルバートとエッジ)


「昔の私はいなくなったよ エドワード」 「!」
「…あの日、アンナと共に死んだ。今君の目の前に立つのは、ダムシアン国王ギルバート・クリス・フォン・ミューア。大勢の国民を護るべき王だ」
 その腕いっぱいにエクスポーションを抱えて言うには少しばかり気障すぎる台詞だ。こうも大人数で行軍するとなれば消耗品の管理は非常に重要となる。金銭管理は勿論ではあるが、それ以上に回復役の管理は重労働、かつ生きて帰るためには必要なことなのだ。
 それらを一手に担っているのがギルバートとハル、即ちダムシアンの者たちである。もともと商売人の国であり、他国との交易により栄えてきたダムシアンの王となれば流石と言わざるを得ぬ手腕である。なるべく魔力での回復を推奨し、魔力が無くなった際、あるいは緊急事態でのみ回復役を使うように訴えかけた。
「確かに、お前は強くなったぜ」
 エッジをエドワードと呼ぶ者は少ない。ギルバートはそのうちの一人であるが、微笑んだままそのエクスポーションのいくつかをエッジに受け取るように促した。
「君たちの班は回復魔法を使える人数が少ないだろう?予備に持って行ってくれ」 「有難い。気がきくな」
「これでも軍師としての勉強はそれなりにしてきたつもりだ。…国同士の戦争が今は無いとはいえ、いつでも籠城して防戦できるようにね」
「バロン相手にか?笑えない冗談だな」
「…冗談じゃないさ」
 美しき国王は笑みを絶やさぬまま、だが瞳には嘘偽りない意志が浮かんでいた。
「たとえ相手がセシルであろうとも、『操られた』セシルであろうともね。私は全ての事態を相手取って備えなければいけない立場だ」
「……本当に、昔の泣き虫ギルバートは死んじまったみてぇだな」
「あぁ。そう思ってくれて構わないよ」
 だが、とエッジはその場に腰を下ろした。
 セシルが目覚めない今、各国の王たちはバロン王の不在を埋めるために奔走していた。カインが戦闘全般を取り仕切り、夜警の分担、哨戒の班分け等戦術の全てを担う。ヤンとエッジ、そしてカインがそれぞれ戦闘班で指揮をとり、後方支援を一手に引き受けるのがギルバートだ。
 ゴルベーザという強力な『仲間』もいるが、やはりかつて彼が引き起こした惨事は大きすぎるが故にまだ仲間からの信頼は厚いと言い難い。常にカインの共につけることしかできないのだ。
 その中で的確にそれぞれの班に持たせるアイテムを仕分けし、その消耗量から適切に再び分配する。戦闘では大して役に立たぬことを自覚しての行動であろう、だが彼がいなくては何も周りはしない。言葉には出さぬがギルバートのそのような姿勢には皆感謝していた。
「そういや、なんでまた今回の俺の班には回復役が少ねぇんだろうな」
 エッジを頭とし、ゲッコウ、ルカ、ツキノワ、そしてレオノーラの五名だ。前衛に偏りすぎており、黒魔法と白魔法の両者を担当するレオノーラは残念ながら詠唱が遅い。魔法は正確であるものの、回復が間に合わぬ事態を想定してギルバートは余分にくすりを手渡していたのだ。エッジとてがんやくをそれなりに持ってはいるが、それだけで事足りるようなメンバーではない。
「……仕方ないさ。皆消耗している」
「…やっぱ、後衛の層が薄いのはキツいか」
「薄いとは言わないさ。優秀だ。…だが、連戦に連戦を重ねればひどく消耗する。セシルが目覚めぬ以上…これ以上の行軍は厳しくなる」
「俺たちは進まなきゃならない」
「そうさ。厳しくとも…困難でも…月は待ってなんてくれない」
 ヤンが率いる班にはローザがいる。しかしその他のメンバーを見てみれば、ルカが面倒を見る人形二体とザンゲツという老兵。カインの部隊になれば、ゴルベーザとリディア、パロムにアーシュラという回復魔法を扱える者がカインだけという悲惨な事態となっている。明かに人手が足りない。
「それでも、か」
 日に日に体力を消耗していく。兎角広いこの月の渓谷を歩き中心を目指さねばならない。拠点を移動させながらじわじわと進んでいくしかないのが足枷となってはいるが、だからといって少数精鋭で攻め込むのも危険すぎる。『軍師』たるギルバートが頭を悩ませた結果選んだのが、全員での行軍だ。
 幸い回復役のストックはまだまだある。だがそんなものでは回復することのできない疲れが全員を蝕み始めていたのだ。
 年若い者、年老いた者は特に消耗が激しい。その分をフォローする先の大戦での立役者たちには重荷が降りかかり、総大将たるカインは拠点ごと移動する際には弛緩したセシルを背負って動く。竜騎士得意のジャンプを使えば後衛と敵を阻む者がいなくなる。彼は最早槍を捨て、右手にセシルの盾を、左手にもバロン国王が聖剣を構える始末。
 早く、早く突破口を見つけねば。
 ギルバートは焦りの中でも冷静でいようともがき、ただただ機械的にくすりを配分する。
 エッジが探索する道はまだ未踏。じきにカインとヤンが戻ってくるだろうが、二人は地下渓谷の先へ進める道を見つけてきてくれるであろうか?最早一国の軍が抱える小隊レベルにまで膨れ上がったこの戦力をどう運用すれば最も効率的だというのか。戦闘経験の浅い者もいれば、ずっと軍に身を置いてきた者、個人戦闘ばかりで集団戦闘には向かぬ者、誰かがいなければ戦えぬ者。それぞれの個性を把握しながら、犠牲を最小限にせねばならない。
 カインが寝る間を惜しみ負担の少ない班分けを考えてはくれているが、それでも消耗は激しい。
「急がねぇとな」
「…まったくだ」
 ギルバートが頭を悩ませすぎて倒れる前に。ヤンが体力の限界を迎えるよりも先に。エッジが仲間を鼓舞することすら諦めてしまう前に。カインが倒れてしまえばそれは、終わりを意味する。
 幼い頃たまに遊んだ『なきむしギルバート』の死を悲しむ間もないのだ。彼もまた、彼のうちに存在していた『わるがきエドワード』が死んでしまっていることに気づかぬまま、今日もまた戦いは続いていく。倒れてはならないのだ、まだ。
 一国も早き王の目覚めを唯ただ願う。
 真っ青な顔をしたギルバートはエッジに「すまないが、もう一踏ん張り頼むよ」と告げてエクスポーションを抱えたまま帰還した傷だらけのヤンのもとへ走って行った。


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